幻のサカナ『クニマス』の苦労が尽きない理由 次なる脅威はウナギ?

2020年02月09日 11:00

[TSURINEWS]

抜粋

秋田県・田沢湖のみに生息し、湖水酸性化が原因で1948年に絶滅したとされていた幻のサカナ『クニマス』が、2010年に山梨県西湖で再発見された。これで安泰と思いきや、新たな脅威として「ウナギ」の名前が・・。

(アイキャッチ画像提供:山梨県水産技術センター)

クニマスの概要

クニマス(英名:black kokanee)は、ベニザケ(ヒメマス)の亜種とされ、日本にのみ生息するサケ目サケ科に属する幻の淡水魚だ。もともとは秋田県にある水深423.4mと日本一深い「田沢湖」のみ生息していた固有種だった。陸封型と降海型の両方に分布するベニザケとは違い、クニマスの多くは繁殖を含め一生を湖だけで過ごすと言われている。

伝承等によると普段は田沢湖の水深100~300m付近の深部に生息していると考えられているが、詳しい生態は分かっておらず、現在も調査中だ。というのも唯一の生息地だった田沢湖で水力発電用のダム建設が行われたことによる水質汚染が原因で、1948年に絶滅したとみられていた。尚、以後同湖では発見されていない。

クニマス絶滅の経緯

田沢湖では、1940年に水力発電所を建設。同湖は、世界では17番目に深い湖として有名で、世界で最も深い湖であるバイカル湖に準えて「日本のバイカル湖」と呼ばれているが、流入河川は小規模な沢しかなく、豊富な水量は湖底の湧水が支えているものと考えられている。しかし一般的な、水力発電所では最大使用水量300立方メートル毎秒以上、つまり1立方メートルが約1tなので、300tの水が毎秒必要とされる。一方で田沢湖の貯水量は7.20立方メートル、すなわち7.2tと必要な水量が足りていなかった。

そこで不足分を秋田県を流れる一級河川の玉川から湖に導入する水路が建設された。同川は、玉川温泉の国内屈指の強酸性の源泉(pH1.1)が流れ込んでおり、「玉川毒水」と呼ばれる昔から魚が住めない沈黙の川としても知られていた。

導入後、田沢湖の水質は、急速に酸性化し1940年代後半にはクニマスをはじめとしたあらゆる魚が死滅してしまった。

絶滅したクニマスが生きていた?

実は、水力発電所建設後、クニマスの絶命を危惧した田沢湖の漁師らが山梨県の本栖湖、西湖のほか、滋賀県の琵琶湖など各地の湖や沼に受精卵を送っていた。

これにより1990年代後半に田沢湖町観光協会が、田沢湖の復興とかつて生息していた特産の淡水魚「クニマス」を観光の目玉にしたいという思いから「クニマス」に500万円等の懸賞金をかけ始めた。しかし残念ながら懸賞金をかけるも、クニマスの確認には至らなかった。

クニマス発見の経緯

ところが実に、約70年ぶりに、山梨県内の湖「西湖」で生き残っていたことが京都大学の中坊徹次教授らのグループの調査で分かった。

発端は、メディア等でおなじみのさかな博士こと、さかなクン(東京海洋大学客員准教授)がクニマスのイラストを描く依頼を受け、2010年春に山梨県の西湖で採取されたヒメマスを参考に取り寄せたことから始まる。届いたヒメマスは西湖では「クロマス」と呼ばれる黒一色のもので、地元では「黒いヒメマス」と考えられていた。

クニマスが生き残った西湖(提供:週刊つりニュース関東版編集部)

西湖でクニマスが生きていた理由

先にも記述した通り、絶命を危惧した田沢湖の漁師らが、各湖に受精卵を送っていた。当時受精卵10万個粒が西湖に運ばれた記録が残っており、放流された個体が繁殖を繰り返し、生き残っていたとみられる。

また、西湖はブラックバスなど外来種が生息することでも有名だが、クニマスが生息する水深が異なったため、長期生存できたと考えられる。

クニマスの今

クニマスの推定資源量推移(提供:週刊つりニュース関東版編集部)

西湖には2017年時点で推定3000尾ほど生息している。さらに同湖でのクニマス発見後、2019年に「ヒメマス」とほぼ同じ条件で完全養殖も成功したため、今後絶滅する可能性は低いだろう。今後はもとの生息地、田沢湖にも放流予定だが、水質改善に難航しているため、そちらは未だ目途が立っていない状況だ。

クニマスの新たな脅威は「ウナギ」?

2017年時点で西湖には、推定3000尾のクニマスが確認され、2019年には完全養殖も成功しているが、実はまだ解決できていない重大な問題も残っている。

ウナギがクニマスの天敵に

クニマスの卵を食べるウナギ(提供:山梨県水産技術センター)

田沢湖では、クニマスの生存を脅かす肉食魚等の天敵が存在していなかった。また西湖でも、ブラックバスやブルーギルをはじめとした外来種の生息域が異なるため問題はない。しかし2016年、クニマスの産卵場へ設置した水中カメラに、ウナギがクニマスの卵を捕食している映像が撮影された。そこで同場所のウナギを採捕したところ、外来種の「ヨーロッパウナギ」であることが確認できた。

ヨーロッパウナギは、西湖に1992~2000年の間に放流されたニホンウナギのウナギの稚魚に混じって侵入した可能性が高いと考えられている。

完全養殖が確立し、順風満帆のように思われていたが、「ヨーロッパウナギ」からの脅威に対する効果的な解決策は未だ目途が立っていない。

ヨーロッパウナギの概要

ヨーロッパウナギ(提供:山梨県水産技術センター)

名前の通りヨーロッパに広く分布し、さまざまな国で古くから食用魚として利用されている。容姿が日本のウナギと非常に酷似しているだけではなく、産卵のため海へ降り、成長すると川に戻ってくる習性も全く同じである。

しかしニホンウナギとヨーロッパウナギの大きな違いとしては、大きく2つが挙げられる。

・日本ウナギよりも長命
・水温が10度以下では捕食活動ができないニホンウナギと異なり、5度前後でもエサをとる行動がみられる

さらにほかの区域はニホンウナギ13対1ヨーロッパウナギに対し、西湖の産卵保護区内はヨーロッパウナギ6対1ニホンウナギという比率でヨーロッパウナギのほうが多いという結果も出ている。

ニホンウナギとヨーロッパウナギの比較(提供:山梨県水産技術センター)

いくつかの捕獲方法が試されている中、ようやく2020年1月23日にヨーロッパウナギの捕獲に成功した。今後も捕獲試験を続け、効率的な駆除方法が模索していくようだ。

使用した漁具(提供:山梨県水産技術センター)

外来種問題は様々な視点が必要

今回は、クニマスの保全の脅威としてヨーロッパウナギの脅威を一部紹介したが、もちろんウナギには罪はない。

近年、放流事業だけに限らず、ペット飼育などで外来種問題が取り上げられているが、そもそも田沢湖でクニマスが絶滅した原因は、人為的な「水力発電所の建設工事」だ。また西湖にクニマスとヨーロッパウナギが生息していることも人為的な「放流」によってである。

どちらも人間の行為が引き起こしたことではあるが、クニマスは資源保護のために保存され、ヨーロッパウナギは侵略的外来種として駆除対象になっている。

今後、今以上に外来種や国内外来種の問題が深刻化していくだろう。我々人類は一歩下がってより慎重に種の保存や環境問題について考えるべきタイミングなのかもしれない。

<四家 匠/TSURINEWS編集部>

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