中禅寺湖でニジマス持ち帰り解禁 原発事故から「10年」を要したワケ
2021年02月26日 16:30
抜粋
福島第一原発の事故から10年になる今年、栃木県日光市の中禅寺湖で事故以来禁止となっていたニジマスの持ち帰りが解禁されることになりました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
中禅寺湖でニジマス持ち帰り解禁
美しい湖岸の景色や日本有数の瀑布である華厳の滝で有名な、栃木県日光市の中禅寺湖。古くからの避暑地であるこの場所には、明治時代以降数多くの欧米人が移り住み、彼らが持ち込んだマス類がたくさん棲息しています。
これらの魚は現在に至るまでルアーフィッシング、フライフィッシングの対象魚として愛されており、食用としても人気の高い貴重な観光資源でした。しかし、東日本大震災とそれに伴って発生した福島第一原発事故以降、マス類の体内から食用基準を超える量の放射性物質が検出され、食用や持ち帰りが禁止になってしまいました。
しかしこの春、栃木県による検査で、ニジマス類に関しては放射性物質の濃度が安定的に基準を下回っていることが確認され、4月から持ち帰りが解禁されることが決定したのです。
なお今回、ニジマスと合わせて「ホンマス」の持ち帰りも解禁される予定であり、4年前に解禁済みのヒメマスと合わせて3種類のマスの持ち帰りが可能となっています。(『中禅寺湖ニジマス持ち帰り解禁に』NHKニュース 2021.2.10)
放射能汚染の経緯
豊かな森に涵養される山奥の湖である中禅寺湖。この閉鎖的な水域に棲むマスたちがどのようにして放射能汚染されたのでしょうか。2013年に水産庁が行った緊急調査でそのメカニズムが調査されていました。
福島第一原発の南西にある栃木県日光市では、原発事故からしばらくの間放射能の空間線量が高くなっていたため、放射性降下物の量も多く、それにより山の樹木やその葉などが汚染されました。そしてその葉が落葉となり河川に落下、さらに中禅寺湖に流入したのです。
河川や湖底に積もった落葉などの有機物は、幼虫時に水中で暮らすカゲロウ、カワゲラ、トビケラといった水生昆虫たちの餌になります。中禅寺湖底の水生昆虫たちは、放射性物質に汚染されたこれらの有機物を食べることで彼ら自身も汚染され、さらにそれを食べる小魚類、マス類といった生態系のより高位な生物たちも汚染していったのです。(『高濃度に放射性セシウムで汚染された魚類の汚染源・汚染経路の解明のための緊急調査研究』水産庁 2013.6)
解禁まで10年を要した理由
上記のメカニズムから、汚染された水生昆虫たちの体内におけるセシウム137の濃度は、空間放射線量率とほぼ同じ増加・減少の傾向を示すものと考えられています。そのため、事故から時間が経過する中で放射能の空間線量が下がっていけば、落葉、水生昆虫、そしてマス類の放射性物質濃度も下がっていくのは当然です。
水の交換が早い河川域では、放射性物質で汚染された有機物が留まり続けることは少ないため、生物類の主たる汚染時期は原発事故直後のみとなります。継続的な汚染の影響は小さく、そのため事故直後に放射性物質降下を経験した高齢のマスが捕食される、死亡するなどして数が減れば、それに伴って平均的な放射性物質濃度も低減されていくのです。放射性物質の半減期よりも早く、放射能汚染が解決していくのはこれが理由です。
しかし、中禅寺湖は国内有数の水深を持つ湖。湖水の量も多く、水や沈殿した有機物の交換に時間がかかります。そのため、他の水域よりも影響が長引いたと考えられるのです。
ブラウントラウトは未解禁
また、現時点でもブラウントラウトについては基準値をクリアできておらず、持ち帰り禁止処置が続いています。魚種ごとの放射性物質代謝能力にも差があるものと見られており、全面的解禁にはまだ多少時間がかかるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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