海水魚のオコゼは「山と関係が深い」魚 その理由は醜い見た目にあり?
2021年12月17日 16:30
抜粋
魚の中でもトップクラスに奇妙な見た目と、見た目からは想像できない美味な身のギャップで知られるオニオコゼ。実は海だけではなく「山」とも関係の深い魚なのです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
瀬戸内海でオニオコゼの放流が実施
広島・尾道市で先月末、オニオコゼの放流が実施されました。放流されたのは3cmほどのサイズの稚魚で、福山大学海洋生物科学科で生産されたものです。学生や地元漁業関係者の手によって、因島などの近海で放流されました。
福山大学は今年から、地元の漁協などと協力してオニオコゼの増殖に取り組んでいます。放流される稚魚には、天然魚と区別したり、放流した年などを追跡したりするため、背びれや耳石などに標識を付けています。
今後、標識のある魚が漁獲されることで、オニオコゼの生態や放流後の生存率などが判明していくのではと期待されています。稚魚は約3年で市場に流通できる大きさにまで成長するといいます。
西高東低の高級魚・オニオコゼ
オニオコゼは「オコゼ」と呼ばれるカサゴ目の魚の中でも、最も知名度が高いものです。見た目は焦げ茶色のボロ雑巾のようでとてもかっこよいとは言えず、加えて背びれの棘には強毒があることから取り扱いにも注意が必要な魚です。
しかし、その身はよく締まりゼラチン質がとても豊富で、非常に旨味が強いことで知られています。その味はフグにも比肩するものとされ「冬のフグ夏のオコゼ」と言われることもしばしばです。
ただ、その水揚げは西日本に集中しており、その価値も西高東低です。高級魚としての評価が定着している西日本に対して、東日本では知名度も需要もさほど高くありません。それでも、近年は徐々に価値が知られ始めているようです。
海の魚なのに「山の神」?
ところで、オコゼといえば切っても切り離せないものがあります。それは「山の神信仰」。古くから、山に登るものや山で仕事をするものは、オコゼの干物を携えるという風習が各地に残っているのです。
その理由については諸説あるようですが、いちばん有名なのは「醜い魚だから」というもの。山の神様にはイワナガヒメを始め「醜い女性」とされる神様が多く、オコゼという醜くも美味な魚を備えることで彼女たちの怒りを鎮める、という意味合いがあったと言われています。
また、そこから転じ、オコゼそのものを「ヤマノカミ」と呼ぶ地域も少なくありません。一方、九州山中の渓流には標準和名ヤマノカミという魚が存在しているので、もし九州で「ヤマノカミ」と言われたら、それが海のものか山のものかを確認する必要があるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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