Dr.近藤惣一郎フィッシングクリニック:コマセマダイ『テーパー仕掛け』
2020年03月31日 11:00
抜粋
問診票
ロングハリスを使うコマセマダイですが、昔は4号10mといった具合に一本の通しハリスでしたが、10年ほど前から、スイベルを介して異なった太さのラインを連結するいわゆる"テーパー仕掛け”、”連結仕掛け"が主流になってきました。なぜテーパー仕掛けが流行ってきたのか、その意味やメリットを教えてください。
(アイキャッチ画像提供:WEBライター・近藤 惣一郎)
診断結果
コマセマダイ、特に東京湾口で大人数の乗り合い船の流し釣りでは、2本のハリスをスイベル(サルカン)で連結するテーパー連結仕掛けがスタンダードになってきています。先(下)ハリスがミキ(上)ハリスより細いのが一般的です。
処方箋
この連結の単純なメリットを考えると、(1)針に近い先ハリスがヨレたり傷んだときに、先ハリスのみの交換で済むので経済的。(2)回転スイベルがあることによってハリスヨレを予防出来る、ロングハリス仕掛けが扱いやすくなる。(3)細い先ハリスで魚の警戒心を減らしつつ、ミキの太ハリスで仕掛け全体の強度を保つ。などが挙げられます。しかし、実際にはこのような単純なものだけではなく、スイベルを入れた連結仕掛けにはさらに奥の深い意味があるのです。
水面からのタナ取りがキモ
一昔前のコマセマダイ釣りは、ビシアジ釣り同様、ビシを底まで降ろし、底からコマセを振りつつ指示ダナまでビシを上げてくるタナ取りが一般的でした。それは底からの方が、ビギナーでもタナが取りやすく、コマセとハリに付けたつけエサが同調しやすく、イメージもしやすくなるからです。朝イチや新しいポイントでの第一投、第二投であれば、高活性のマダイがすぐに喰ってくるチャンスもあります。
しかしこの方法は、底まで降りたビシから底付近で大量にコマセが撒かれることで、エサ取りが集まりやすいこと、そして何よりも警戒心の高いマダイを散らせてしまうデメリットがあります。
あるいは一日の釣りの中で、ロングハリスをムーチングロッドの置きザオスタイルで待っていたら偶然、エサ取りにとられず、残ったつけエサが、マダイの目の前に行き、マダイが釣れることもあります。ですから今でも、底からのタナ取りでマダイ釣りを行う地域はあります。しかし、その釣り方ではよほど条件の良い日でなければ数は伸びません。
一方、魚探や船長の指示で水面からタナをとることのメリットは、深くまでビシを落とさないことで、マダイ、特に良型マダイを驚かせない、散らさないことにあります。また、エサ取りも寄せにくくなります。そして何よりも、ビシが高い位置にあるメリットは「高い位置からつけエサを落とし込める」ということに他なりません。
水面からのタナ取りではリールカウンターではなく、必ずミチイトマーカーを頼りに正確なタナ取りが必要になります。ビギナーなど、慣れていない釣り人は時にタナぼけしやすいリスクもありますが、近年、乗り合い船でコンスタントにマダイの数、型をあげている地域の船宿は、ほとんどが水面からのタナ取りなのです。
コマセとつけエサの最適な関係
積極的にエサやルアーを動かしてマダイを釣るテンヤマダイやタイラバが近年流行しているように、マダイは動くエサを嫌がるのではありません。マダイに限らず魚を釣るためには、その魚の習性を理解しなければなりません。
マダイはコマセ煙幕よりも下層で悠然と機会を伺いつつ、捕食の際は他の魚に比べものにならないほどの遊泳力で一気に上昇反転し、落下してくるエサを捕食します。コマセマダイのロングハリスはマダイを脅かさないというより、コマセ煙幕からフワリと自然に落下するつけエサの動きを演出する装置なのです。
しかし時に10mを超えるハリス長は釣り人を迷路に誘い込みます。マダイを恐れずコマセに寄ってくるエサ取りが更にこの釣りを難しくします。コマセマダイではエサ取りを避けつつ、マダイの捕食スイッチを入れるコマセワークとつけエサの最適な落下状態を、その時その時の潮の流れや海底地形、魚の居場所をイメージしながら積極的に釣り人が作りだす”攻めの釣り”であり、その基本はコマセで浮いて来たやる気のあるマダイの眼前につけエサを落とし込んで誘う「落とし込み釣法」なのです。そして、この落とし込み釣法で有効になるのが、連結部にスイベルの重量がある仕掛け=テーパー仕掛けになるのです。
落とし込み釣法
具体的には船長の指示タナよりもビシをハリス長半分ほど降ろし、仕掛けが馴染むのを数十秒待ったら3、4回ほどコマセを振り出しつつタナまでビシを上げます。オキアミの自然落下速度は2~3m/分。ハリスが10mであればタナより5m下で最初に振り出したコマセが、5m先のつけエサに近づくには2分ほど要しますからじっと待ちます。そしてその後、つけエサが、コマセ煙幕よりも少し先行して落ちてゆく様を演出するのです。これが落とし込み釣法です。
具体的には50cmビシを下げ10秒待ち、また50cm下げて10秒待ちます。落とし込み動作はサオ先を下げる方法やミチイトをゆっくり手繰り出す方法などがありますが、当日のアタリパターンを掴んで臨機応変に行います。ビシを下げすぎるとマダイを散らしてしまいますから、船長の指示ダナから2~3m下までが落とし込める下限目安。下限になれば再びビシをタナまで上げて同じことを繰り返します。
この釣法をさせてくれる船長は魚の活性が上がってくると、「何mから何mまでゆっくり落とし込んで誘って」といった具合にアナウンスしてくれることが多いです。数分後にはコマセは流れ、つけエサと離れてしまいますからビシを回収してコマセ・仕掛けを入れ替えます。
ただし、文章で書くことは簡単ですが、実際の海では二枚潮やマダイが捕食するポイントで沸き上がる潮が当たり前にあり、ハリスにフケが出たり、つけエサとコマセが同調することが難しいケースの方が多いのです。
テーパー仕掛けとウェイト
その時有効なのが、ハリスにガン玉やスイベルなどウェイトを負荷することです。これによりハリスに張りが出て、つけエサもこれが支点になって落とし込まれやすくなります。この方法はスイベルを挟みミキイトと先イトを5号~4号といった具合にテーパーにすることから「テーパーハリス」と呼ばれることもありますが、本質はハリスのテーパーでは無く、ウェイトを負荷することだと考えます。
ハリスのどの部分にどの程度のウェイトを負荷するかは潮況や地域によって異なってきますが、毎日その海に出ている船長や常連さんのアドバイスを頼りに行うのが一番です。例えば先ハリス3.5号4mとミキハリス4号6mの間にスイベル4号(0.4g)といった具合です。地域、船宿によっては底からタナをとったり、ビシの位置を動かすことを禁ずるところもあるため今回紹介した落とし込み釣法が全ての船宿で実行できるとは限りませんが、関東のコマセマダイが置きザオの”待ちの釣り”から手持ちザオでの”攻める釣り”に名実変化してきたことは確かなトレンドです。
ハリス沈下速度
テーパー仕掛けの意味は、連結スイベルの重量で落とし込み釣法を行うということをこれまで書いてきました。しかし先イトとミキイトのハリス径を変化させることにも深い意味はあります。
それは、太ハリスは潮の抵抗を受け浮きやすく、細ハリスは沈みやすいということです。マダイの活性が低い時、細ハリスを使うと警戒心が弱まり、釣れやすくなると考える人は多いですが、実は細ハリスはそれと同時に沈みやすいのです。そのことが仕掛けの形状やつけエサの落下速度にも影響を与えるのです。活性が低くマダイが底に貼り付いている時、ハリスを4号から3号に細くしてアタリが出た場合、それは単純に魚の警戒心を弱めただけでなく、つけエサが落とし込まれやすくなっていることも知っておきたい事実です。
既述のように実際の海では二枚潮やマダイが捕食するポイントでは沸き上がる潮が当たり前にあります。ハリスにフケが出たり、つけエサとコマセが同調することが難しいことがしばしばです。ベテラン釣り師達は、その時、連結スイベルやガン玉のウエイトを上手く使って、本命をゲットするのです。テーパー仕掛けとは実に奥が深いものと言えます。
<近藤惣一郎/TSURINEWS・WEBライター>